マッドマガジンレコードのアイドルたち

各地にローカルアイドルが割拠する今、愛媛を拠点とするひめキュンフルーツ缶と、妹分であるnanoCUNE、FRUITPOCHETTEは、とりわけ異彩を放つ存在といえるだろう。彼女たちを擁する事務所にしてレコード会社のマッドマガジンレコードがその特色に寄与する部分は大きい。プロデューサーである伊賀千晃はジャパハリネットのプロデューサーを務めた経験を持ち、ライブハウス松山サロンキティを運営している。楽曲制作を手掛けるのも同事務所に所属する現役のバンドプレイヤー。こうした愛媛のロック畑から生まれたアイドルたちについて語っていこう。

ひめキュンフルーツ缶

情熱、エモーション。~REAL IDOROLL GIFT~

愛媛発のパワフルロックアイドル、ひめキュンフルーツ缶。この夏、徳間ジャパンよりメジャーデビューを果たし、今最も勢いのあるローカルアイドルと言えるだろう。その最大の魅力はロックを基調とした質の高い音楽を、パワフルなダンスでパフォーマンスするライブにある。楽曲制作を手掛けるのは、同じ事務所であるマッドマガジンレコードのコンポーザー井上卓也と山下智輝だ。両氏はバンドのフロントマンとしても活動している現役のプレイヤーであるため、生み出す楽曲はバンドサウンドそのものであり、ひめキュンの楽曲の根幹を成している。

彼女たちのパフォーマンスの魅力となっているパワフルなダンスは、日々のトレーニングのたまものだ。彼女たちは日々のレッスンで体幹トレーニングをはじめとする筋トレ、走り込みなどのメニューをこなしている。今夏は野外ライブ対策としてサウナスーツを着てダンスレッスンをこなしたというから、その鍛え方は相当なものだ。さながら全国大会常連校の運動部に所属する部活少女のようである。こうしたトレーニングによって身に付けた力強いダンスは、アスリートがそうであるように、むやみに全力を出すのではなくパワーをコントロール下に置き、効率的に力を発揮したときに見られる機能美的な美しさすら見られる。これこそがひめキュンのパフォーマンスの魅力だ。

そんなパワフルなステージを魅せる彼女たちだが、素顔はいたって自然体だ。いかにもアイドルといった風の過剰な自己演出をすることもなく、何としても売れてやるといったガツガツした感じもない。さきほど述べたように、まさに部活少女といった雰囲気がある。

彼女たちがこうしたメンタリティを持っているのは、松山に確固とした拠点を持っているからかもしれない。事務所所有のライブハウス松山サロンキティをホームとして、ここで日々のレッスン、レコーディングを行う。愛媛県内ではテレビやラジオ番組への出演、地元の企業CMへの出演と活躍し、松山市内での知名度は高い。こうした安定した地盤を持っていることがひめキュンの強みといえる。これは引いては地元に密着した活動を行うローカルアイドル特有の強みであり、幾多のアイドルが活動する東京のアイドルシーンにはなかなか見られるものではない。

全く個人的な見解だが、現在のアイドルシーンに通底する競争原理、売れなければ脱退・解散といった剥き出しの熾烈さから、ひめキュンはどこか無縁な雰囲気がある。競争原理にさらされ続け、売れないがために悲愴感すら漂わせるアイドルグループもいる中で、ひめキュンの自然体でのびのびとしたスタンスは際立って魅力に映る。ただ、メジャーデビューを果たした今、こうした雰囲気のままで居続けることができるかどうかは正直言って分からない。もちろん、私としては今の雰囲気のままでいて欲しいし、既に崩れかかっている音楽業界の既存の成功パターンに必ずしもとらわれない、アイドルの新しい成功の実績を示してくれはしないだろうかと願っている。

nanoCUNE

天上遊園

ひめキュンフルーツ缶の妹分であるnanoCUNEは、既に愛媛だけに留まらない勢いを得ている。東京でのライブ出演数は月に複数回に及ぶときもあり、ファン数を着実に増やしてきている。メンバーはほぼ全員中学生で全体的にキュートな印象。エレクトリックなロックサウンドを基調とした音楽がスタイリッシュ。愛媛の普通の中学生がカッコイイ音楽を歌って踊り、他愛もない会話を無邪気に交わしてくれる。これだけで十分魅力的だ。

ひめキュンの場合、パフォーマンスすること、表現することに対し自覚的であり、だからこそ魅力的なパフォーマーたり得ているのだが、nanoCUNEの場合はそれがない。彼女たちはまっさらだ。何にも染まっていない無垢。これこそがnanoCUNEの魅力なのだ。

イノセントな少女たちに作りこまれた音楽が憑依し、少女たちは可憐に舞い踊る。これだけで彼女たちは1つの世界観を作り上げてしまっている。それは無機質なボーカロイドの歌を聴き、その世界観が表出した映像を見て違和感と愛着が同居する感情を抱くあの奇妙な感覚にも近い。ボーカロイド的だと評価されることがあり、私自身の第一印象もそうだったが、それは決して悪い印象ではない。この無邪気さと無機質さの融合こそ、nanoCUNEの魅力なのだ。

FRUITPOCHETTE

疾風迅雷-しっぷうじんらい-

マッドマガジンレコード第三弾ユニット、FRUITPOCHETTE(通称フルポシェ)を見れば、ローカルアイドルという言葉から連想する牧歌的なイメージは全く崩れ去ることになるだろう。

フルポシェの魅力は、ほとんどメタルバンドと言ってもいいハードな音楽性にある。アイドル×メタルといえばBABYMETALがいるが彼女たちはアイドルらしいキュートさを残しており、コミカルな合いの手や歌詞などと相まって見ている分には普通に可愛い(もっともライブでは戦場のようなモッシュが起こり、一気にハードでマッチョな空間に転じるのだが…)。一方フルポシェはアイドルらしいキュートさというものはほとんど見られず、いわば常にクールにキメているV系バンドのような印象だ。

この夏には愛媛で開催されたロックフェス「SUNBURST 2013」に出演し、ひめキュン同様、活動場所をアイドルシーンに限定していない。おそらくそれは正しい戦略だろう。アイドル×メタルという道はBABYMETALによって既に切り開かれており、この新たなシーンを築いていく存在になれる可能性を彼女たちは十分秘めているのではないだろうか。

メジャーデビューしたひめキュンフルーツ缶は今、最も勢いのある時期にある。その勢いで妹分のnanoCUNE、フルポシェも引き上げ、マッドマガジンレコードのグループ全体でアイドルシーンにおける存在感を強めている。またロックシーンに殴り込みをかけるなど、面白い展開が今まさに進行中だ。愛媛のロック畑生まれのアイドルたちから目が離せない。